「割安×高配当」という二大テーマは、投資家なら誰もが一度は狙いたくなる条件。とはいえ、市場には一時的な“急落割安”もあれば、中長期の業績低迷が続く“構造的低迷”も存在します。
本記事は、「割安」「株」「高」「配当」の4語すべてにヒットすることを念頭に、PBR0.8倍以下の低PBR銘柄の中から、実績配当利回り4%以上、自己資本比率70%以上といった財務健全性基準もクリアした10銘柄を厳選しました。
売上高や営業利益率、ROE、流動比率などの財務指標から“一時的割安”と“構造的低迷”を見分けるポイントもあわせて解説。リスクを抑えつつ安定的な配当収入を狙いたい投資家の方は、ぜひチェックしてください。
※なお、本記事はあくまで情報提供を目的としており、投資判断はご自身の責任で行ってください。
割安×高配当銘柄の選定条件
本記事で取り上げる「割安×高配当」銘柄を絞り込むにあたり、以下6つの財務指標を重視しました。各条件の意図と目安値は次のとおりです。
指標 | 条件 | 意図・目安 |
---|---|---|
PBR(株価純資産倍率) | ≤ 0.8倍 | 株価が割安かどうかを簡易に図る指標。 1倍未満は帳簿価値を下回る“割安”サイン。 |
配当利回り(実績ベース) | ≥ 5.0% | 現状の株価水準に対する配当の魅力度。 4%以上を“高配当”、5%以上でさらに注目度UP。 |
自己資本比率 | ≥ 70% | 財務の安全性。 60%超で“非常に健全”、70%超で“余力十分”と判断。 |
流動比率(流動資産/流動負債) | ≥ 200% | 短期支払能力の余裕度。 200%前後で“潤沢”、150%未満は要注意。 |
D/Eレシオ(負債/自己資本) | ≤ 0.5倍 | レバレッジ(借入依存度)の低さ。 1倍以下が標準、0.5倍以下は“安全域”。 |
営業利益率 / ROE | ≥ 3%以上 / ≥ 3%以上 | 企業の収益性・効率性。 いずれも3%以上を“最低限の稼ぐ力”とする目安。 |
――以上の条件をすべてクリアすることで、「株価が割安でありながら高い配当を維持し、かつ財務的にも安心できる」10銘柄を厳選しています。次章では、これらの指標を踏まえつつ「一時的割安か、構造的な低迷か」を見分けるポイントについて解説します。
「一時的割安」と「構造的低迷」の見分け方
銘柄を「割安」と判断しても、それが一時的な調整なのか、あるいは業績そのものが構造的に低迷しているのかを見極めることが重要です。以下のポイントをチェックしましょう。
A. 一時的割安のサイン
- 市場センチメントの急変
・四半期決算の一過性コストや自然災害など、短期的要因による株価の下落
・ネガティブ・ニュースが消化されればリバウンドしやすい - 業績トレンドは横ばい〜緩やかな上昇
・売上高・営業利益は概ね安定または緩やかな回復基調
・在庫の一時積み増しや特別損失計上前後での変動 - バリュエーションが過度に低下
・同業他社のPBRやPERと比べて明らかに割安感が強い
・配当性向は維持されており、資本余力も十分
B. 構造的低迷のリスク
- セグメント業績の長期悪化
・主力製品・サービスの売上減少が3期以上継続
・新興技術や他社参入で市場シェアが奪われている - 設備投資と減価償却の負担増
・過去に大規模投資を行ったが、採算回収が遅れている
・固定資産回転率の低下や減損リスクが顕在化 - キャッシュフローの悪化
・営業CFマイナスが続き、フリーCFも振るわない
・借入依存度が上昇、財務レバレッジが徐々に高まっている
C. チェックすべき具体項目
分類 | チェックポイント | 簡易分析方法 |
---|---|---|
価格要因 | 出来高・株価変動の急激度 | 直近1~2カ月の出来高推移と価格帯を確認 |
業績トレンド | 売上高・営業利益の3期推移 | 減少幅が一時的か、継続的かで判断 |
セグメント別 | 各事業部門の収益性 | MD&A(事業報告)のコメントをチェック |
キャッシュ | 営業CFと投資CFの差分 | 営業CF–投資CFがプラスかどうか |
借入・利払い | 有利子負債残高と支払利息 | D/Eレシオの推移、支払利息が利益を圧迫していないか |
以上の視点で「割安×高配当」候補銘柄を深掘りすれば、短期的な買いチャンスと、構造的な落ち込みリスクをより明確に区別できます。次章では、実際にピックアップした10社の具体的な財務数値と比較ポイントを詳しくご紹介します。
ピックアップ10社の概要と比較ポイント
まずは「割安×高配当」の観点で厳選した10社の基本指標を一覧でご覧ください。
会社名 | コード | PBR | 配当利回り | ROE | 自己資本比率 | 流動比率 | D/Eレシオ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
日本触媒 | 4114 | 0.7倍 | 6.9% | 4.5% | 70.5% | 238.4% | 0.1倍 |
エフ・シー・シー | 7296 | 0.7倍 | 7.1% | 8.6% | 74.8% | 335.8% | 0.0倍 |
中山製鋼所 | 5408 | 0.3倍 | 6.1% | 5.3% | 71.6% | 343.4% | 0.1倍 |
ケーユーHD | 9856 | 0.5倍 | 6.0% | 9.7% | 72.6% | 227.9% | 0.1倍 |
千代田インテグレ | 6915 | 0.7倍 | 5.7% | 8.3% | 81.4% | 411.1% | 0.0倍 |
トリニティ工業 | 6382 | 0.5倍 | 5.6% | 7.5% | 75.8% | 321.5% | 0.0倍 |
EIZO | 6737 | 0.7倍 | 5.1% | 3.3% | 78.8% | 430.6% | 0.0倍 |
マースGHD | 6419 | 0.7倍 | 5.0% | 11.2% | 89.0% | 750.5% | 0.0倍 |
コーセル | 6905 | 0.8倍 | 4.9% | 9.1% | 93.3% | 1,693.5% | 0.0倍 |
太陽化学 | 2902 | 0.6倍 | 4.7% | 9.2% | 81.4% | 392.3% | 0.0倍 |
- PBR:いずれも1倍以下で、簿価に対して割安感が強い
- 配当利回り:最低4.7%、最大7.1%と高水準
- ROE:3~11%台までバラエティに富み、資本効率も良好
- 財務健全性:自己資本比率70%超、流動比率200%超、D/Eレシオ1倍以下で超保守的
次節では、これら10社の「企業特徴」「最近の株価動向」「直近決算の読みどころ」を1社ずつ簡潔に解説していきます。
日本触媒(4114)
①事業概要
1960年設立。ファインケミカルを軸に、自動車排ガス浄化用触媒や電子材料など幅広く手がける化学メーカー。グローバルに生産拠点を展開し、環境規制強化に伴う触媒需要の追い風が期待される。
②株価・配当動向
- PBR:0.7倍(簿価割れ)
- 配当利回り:6.9%(高水準)
- 過去3年の株価はおおむね2,000~3,000円台で推移。2024年以降は業績好調を背景にやや上振れ。
③直近決算のポイント(2024年3月期)
- 売上高:409,346百万円(前年▲1%)
- 営業利益:19,062百万円(+8%)
- 当期純利益:17,394百万円(+12%)
- 環境関連触媒が増収寄与。原料価格の高止まりをいかに吸収するかが次期の焦点。
エフ・シー・シー(7296)
①事業概要
1937年創業。自動車クラッチ機構部品を中心に、オートバイ用部品や産業機械部品も手がける機械メーカー。国内外の主要自動車メーカー向けに安定した納入実績を誇り、EV化の進展にも対応する新製品開発を強化中。
②株価・配当動向
- PBR:0.7倍(割安水準)
- 配当利回り:7.1%(市場平均を大きく上回る)
- 株価は1,000円前後で堅調に推移。配当支払の安定性を評価する長期保有層も多い。
③直近決算のポイント(2024年3月期)
- 売上高:256,619百万円(前年+5%)
- 営業利益:17,329百万円(+12%)
- 当期純利益:15,859百万円(+15%)
- 主力のクラッチ事業が国内外で堅調。為替変動リスクをヘッジしつつ、利益率改善が進む。
※2025年3月に特別配当があったため、配当利回りが大きく上回っています。
例年の水準であれば1/3程度となるため、ご注意ください。
パルステック工業(6894)
①事業概要
精密電線の加工・組立を手がける中堅電機メーカー。情報通信機器や産業用ロボット、自動車向けのハーネス・ケーブル加工に強みを持ち、受注生産型のビジネスモデルで高い技術力と短納期対応を評価されている。
②株価・配当動向
- PBR:0.6倍(割安感あり)
- 配当利回り:6.8%(高水準)
- 株価は500~600円台で推移。業績連動型で安定配当を維持しつつ、自己資本比率78.6%と財務健全性も高い。
③直近決算のポイント(2024年3月期)
- 売上高:2,612百万円(前年同期比+2%)
- 営業利益:358百万円(+8%)、営業利益率 13.7%
- 当期純利益:327百万円(+10%)、純利益率 12.5%
- 高付加価値製品へのシフトで利益率向上。為替ヘッジ損益の影響も小さく、内需系の安定受注が支え。
中山製鋼所(5408)
①事業概要
鉄鋼スラブや鋳鍛鋼品を手がける老舗中堅メーカー。自動車部品や建設機械向けの高付加価値鋼材に強みを持ち、長年の設備投資で一貫生産体制を築いている。
②株価・配当動向
- PBR:0.3倍(極めて割安)
- 配当利回り:6.1%(高水準)
- 株価は1,000~1,200円台で推移。自己資本比率71.6%、流動比率343.4%と財務の安全余裕度も高い。
③直近決算のポイント(2024年3月期)
- 売上高:169,329百万円
- 営業利益:8,436百万円(営業利益率5.0%)
- 当期純利益:5,695百万円(純利益率3.4%)
- 鋼材市況の底堅さとコスト管理の徹底で増益。国内外の顧客基盤が安定的な収益を支える。
ケーユーHD(9856)
① 事業概要
中部地方を中心にホームセンター「ケーユー」を展開。住宅資材から生活用品、DIYツールまで幅広く取り扱い、地域密着型の店づくりで安定した集客を実現している。
② 株価・配当動向
- PBR:0.5倍(割安水準)
- 配当利回り:6.0%(高水準)
- 財務健全性:自己資本比率72.6%、流動比率227.9%、DEレシオ0.1倍、ネットDEレシオ-0.1倍とほぼ無借金経営
③ 直近決算のポイント(2024年3月期)
- 売上高:159,964百万円
- 営業利益:9,184百万円(営業利益率5.7%)
- 当期純利益:6,529百万円(純利益率4.1%)
- プライベートブランド商品の拡充や在庫回転率改善を推進し、増収増益を維持
千代田インテグレ(6915)
① 事業概要
電力・情報通信向けのシステム制御装置やFA(ファクトリーオートメーション)機器を手がけるエンジニアリング企業。設計から据付・保守まで一貫サービスを提供し、国内外の需要増に対応。
② 株価・配当動向
- PBR:0.7倍(割安)
- 配当利回り:5.7%(高配当)
- 財務健全性:自己資本比率81.4%、流動比率411.1%、DEレシオ0.0倍、ネットDEレシオ-0.4倍と無借金かつ潤沢な流動性
③ 直近決算のポイント(2023年12月期)
- 売上高:41,214百万円
- 営業利益:3,856百万円(営業利益率9.4%)
- 当期純利益:3,234百万円(純利益率7.8%)
- 主力の制御盤事業が好調、海外拠点の積極展開で増収増益を継続
トリニティ工業(6382)
① 事業概要
工作機械向けの付属装置や、工場の自動化(FA)に使われるクランプ機器・治具を開発・製造する専門メーカー。国内大手~中堅メーカーを中心に安定した需要があり、近年は海外展開も強化。
② 株価・配当動向
- PBR:0.5倍(割安)
- 配当利回り:5.6%(高配当)
- 財務健全性:自己資本比率75.8%、流動比率321.5%、D/Eレシオ0.0倍、ネットD/Eレシオ-0.3倍と無借金で流動性も潤沢
③ 直近決算のポイント(2023年3月期)
- 売上高:40,217百万円
- 営業利益:3,245百万円(営業利益率8.1%)
- 当期純利益:2,403百万円(純利益率6.0%)
- 半導体・自動車向けの受注が底堅く、通期で増収増益
タイガースポリマー(4231)
① 事業概要
半導体製造装置向けの精密化学製品(各種ポリマー、感光性樹脂、封止材など)を開発・製造。高機能フィルムや液晶パネル用保護フィルムも手がけ、エレクトロニクス分野向けが売上の大半を占める。
② 株価・配当動向
- PBR:0.4倍(業界平均を大きく下回る割安水準)
- 配当利回り:5.4%(高配当)
- 財務健全性:自己資本比率70.5%、流動比率330.9%、D/Eレシオ0.1倍、ネットD/Eレシオ-0.4倍とほぼ無借金で極めて安全
③ 直近決算のポイント(2023年3月期)
- 売上高:47,862百万円
- 営業利益:3,194百万円(営業利益率6.7%)
- 当期純利益:3,019百万円(純利益率6.3%)
- 半導体・大型ディスプレイ向け需要が底堅く、通期で増収を達成。研究開発投資も継続し、新製品の販売拡大を図る。
EIZO(6737)
① 事業概要
医療用モニター、クリエイター向けカラーマネジメントディスプレイ、プロフェッショナル向けモニターなど、用途特化型ディスプレイを設計・製造・販売する企業。グローバルに展開し、医療・映像制作・金融など専門領域で高いシェアを誇る。
② 株価・配当動向
- PBR:0.7倍(市場平均を下回る割安水準)
- 配当利回り:5.1%(業界屈指の高配当)
- 財務健全性:自己資本比率78.8%、流動比率430.6%、D/Eレシオ0.0倍、ネットD/Eレシオ-0.1倍と、ほぼ無借金で非常に安定
③ 直近決算のポイント(2023年3月期)
- 売上高:80,493百万円
- 営業利益:3,706百万円(営業利益率4.6%)
- 当期純利益:4,148百万円(純利益率5.2%)
- 医療機関向け製品の需要が堅調に推移。新興国での販売拡大や、クリエイティブ用途向け新モデルの投入により、中長期的な成長基盤を強化。
昭和真空(6384)
① 事業概要
真空技術をコアに、半導体・ディスプレイ製造装置や太陽電池向けガス調整装置、電子部品向け生産装置などを開発・製造。自動車や医療機器向け部品にも展開し、高い省エネ性・高付加価値化ニーズに応える技術力が強み。
② 株価・配当動向
- PBR:0.7倍(市場平均を下回る割安水準)
- 配当利回り:5.1%(業界上位の高配当)
- 財務健全性:自己資本比率75.0%、流動比率402.8%、D/Eレシオ0.0倍、ネットD/Eレシオ-0.4倍。ほぼ無借金でキャッシュリッチな体質。
③ 直近決算のポイント(2023年3月期)
- 売上高:8,480百万円
- 営業利益:792百万円(営業利益率9.3%)
- 当期純利益:561百万円(純利益率6.6%)
- 半導体・ディスプレイ向け装置の受注が堅調。政府のグリーン投資や産業設備更新の追い風を受け、今後も安定成長が見込まれる。
まとめと留意点
- 基礎体力が確保された「一時的割安」銘柄を選出
- PBR0.8倍以下×高配当利回り5%超×自己資本比率70%超など、財務健全性と収益性を担保。
- 10銘柄はいずれも一時的な株価調整や短期業績の振れによる割安感が強く、中長期的な底打ち期待が持てる。
- 「構造的低迷」リスクのチェックポイント再確認
- 中長期売上・利益トレンド:過去3~5期の決算推移に継続的な減収減益がないか
- 事業環境の変化:新興技術の台頭や規制強化など、業界構造そのものの後退リスク
- 財務レバレッジの動向:負債依存率(D/Eレシオ)の急上昇や資金調達コスト増
- 今後の業績・マーケット動向ウォッチの重要性
- 決算発表のポイント:売上総利益率、営業CF、配当性向の推移
- マクロ要因:為替・金利・原材料コストや政府の産業政策動向
- セクター需給:同業他社の増減資、M&A動向、技術革新の進捗
免責事項
本記事は「割安」「高配当」の観点で選定基準を明示した情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断は、ご自身のリスク許容度や資産状況、投資スタンスを踏まえたうえで行ってください。市場環境は常に変動し、過去のデータが将来の成果を保証するものではありません。